学生のとき、僕にはとても可愛い彼女ができた。

僕の時代はとにかく彼女がいるということはステータスだったから、
彼女ができて、僕はすごく嬉しかった。
彼女ができて、僕は精一杯かっこいいことがしたいと思った。
おしゃれな喫茶店やバーにデートに誘った。
バイクの後ろに載せて、景色のいいところへ連れて行った。

付き合いを始めて3ヶ月が経った頃、彼女の誕生日が来るとわかって、彼女に素敵なプレゼントをしようと思った。

僕は銀の指輪をあげることにした。
彼氏からのプレゼントとして、薬指の指輪をあげるのは最高のステータスだと思ったし、なにより彼女の19の誕生日にプレゼントをあげるというのは二度とない経験だと思った。
実際、今でも僕自身にとって最高の経験だと思っている。

女の子は19歳の誕生日に年上の男の人から銀のアクセサリーをプレゼントしてもらうと幸せな結婚ができるという。ヨーロッパの言い伝えらしい。
(ネットがない時代にこの話はよく知られていたけれど、誰に聞いたかは覚えていない)

そして、かっこいいことはよりかっこよくしたくて
ただ銀の指輪をあげるのでなく、あげるならおしゃれに決めたい。
だって僕にとっても彼女にとっても一度しかない思い出になるのだから。
僕は、当時おしゃれなブランドとして有名になりつつあった「4℃」に行くことにした。
当時の4℃はまだ今のようなジュエリーショップではなく、小さなアクセサリーショップだったのを覚えている。
(ネットで見ると今ではシルバーアクセサリーといえば4℃というのが有名になっている)

僕はリングに銀のビーズがあしらわれた可愛い指輪を選んだ。

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その4℃の銀の指輪は
その4年後、4℃の金の指輪になった。

銀の指輪をあげた彼女はしあわせな結婚をした。

そして34年がたった今、彼女はその思い出をリビングの僕の横で一緒に語っている。
しあわせな結婚をしたのは僕のほうかもしれない。